心臓病について Heart Disease

 その中には、生まれつきの心臓病(先天性心疾患)と、生まれた後から心臓病になる場合(後天性心疾患)があります。そして、猫に多い心臓の筋肉自体が障害されていく心筋症という病気があります。心臓病は、一般的には治すことが難しい病気ですが手術をすれば助かる心臓病もありますし、手術ができない心臓病でも早期に内科治療を始めることで、動物が楽になったり、寿命を延ばしたりすることができます。心臓病は、命にかかわる病気ですので、一刻も早い診断治療が大切です。

心臓病が多い犬の種類

手術写真
  • ●ダックスフンド ●ゴールデンレトリバー
    ●シュナウザー ●プードル ●シェルティ
    ●ポメラニアン など
  • ●マルチーズ ●チン ●ポメラニアン
    ●キャバリアキングチャールズスパニエル など
  • ●ドーベルマン ●ボクサー ●ラブラドールレトリバー
    ●ゴールデンレトリバー など

心臓病が多い猫の種類

  • ●メインクーン ●アメリカンショートヘアー
    ●ラグドール など

特徴的な心臓病の症状

  • のどに何か詰まったような咳をする
  • 口を開けて呼吸をしている
  • 舌や歯肉の色が悪い、紫色をしている (チアノーゼ)
  • 心臓の音がおかしい、犬を触るとズーズーと胸が震えている
  • 運動をした後に、呼吸が粗くなる
  • 倒れる
  • お腹が張ってきた(腹水)
  • 急に呼吸が悪くなり、後ろ足が立てなくなった

心臓病の一般的な治療

 心臓病の治療の基本は、お薬による内科治療です。ただし、先天性の心臓病は、数か月齢の子犬でも病気がすすみ手遅れになっていることも少なくありませんので、早期に診断し、早期に手術をしなくてはなりません。後天性の心臓病は、内科治療で寿命が明らかに伸びますので、毎日処方されたお薬を飲ませていくことが重要です。また、心臓病の末期には、必ずといっていいほど腎臓病を合併してきますので、食事療法も併用していきます。症状に応じた治療が大切ですので、定期的な心臓の検査に基づいて、お薬と食事を決めていきます。

病名とその症状


  • 動脈管開存症(PDA)   先天性心疾患

 生後なくなるはずの動脈管が、残存する病気で、この血管により大動脈と肺動脈がつながったままになり、様々な症状を示していきます。治療しないと、1年で約70%は死亡してしまいますので、動脈管を閉鎖する手術をすみやかに行う必要があります。様々な手術法がありますが、心臓病が進み手遅れになってしまうと手術しても助かりません。

心臓エコー検査
動脈管から肺動脈に逆流する血流を捉えています。

心臓カテーテル検査
(AO:大動脈、PA:肺動脈、DA:動脈管)

足の血管からカテーテルを大動脈に挿入し、動脈管を造影しています。

治療法

 内科的な治療も行っていきますが、できるだけ早く手術をすべきです。手術は、動物の胸を切開して、動脈管を特殊な糸で縛り血流を遮断する方法と、インターベンション治療と言われている血管から特殊なコイルなどを動脈管に挿入し血流を止めてしまうという方法があります。

手術写真(AO:大動脈、PA:肺動脈、DA:動脈管)
左の胸を開いて心臓の血管を分離して動脈管を結紮するところです。

インターベンションによる治療(コイル栓塞術)
足の血管から特殊なコイル(矢印)を動脈管に誘導し閉鎖した後の造影写真です。 動脈管から肺動脈への血流が遮断されています。

  • 肺動脈狭窄症(PS)   先天性心疾患

 肺動脈の部分が狭いという異常をもった先天性心疾患です。狭窄(狭くなること)の程度により、病状が異なります。中~重度なものでは、手術が必要です。この心臓病も、死亡する病気ですので、精密な検査に基づく治療が必要です。

心臓エコー検査
肺動脈の狭窄部からのジェット血流を捉えています。

心臓カテーテル検査
(PA:肺動脈、RV:右心室、矢印:狭窄部)

首の血管からカテーテルを右心室まで入れて造影した写真です。非常に狭くなった肺動脈弁部(矢印)が確認できます。また狭窄後の肺動脈が大きく拡張しているのもこの病気の特徴です。

治療法

 内科的な治療も行っていきますが、成長期の犬や重度なものでは手術を行っていきます。手術は、人工心肺装置を接続し、心臓を一度止めて肺動脈を広げていく方法が根治治療になります。また、インターベンション治療として、足や首の血管から特殊なバルーンカテーテルを挿入し、狭くなっている肺動脈に誘導しそれを広げることにより狭窄を軽減する方法などがあります。

開心術(右室流出路拡大形成術)
人工心肺装置を接続し、心臓を止めて狭くなっている肺動脈を切除し、その上に特殊処理をした人工血管(*)を縫いつけ、肺動脈へ血液がよく流れるようにします。この後、心臓を再度動かし、人工心肺装置から離脱していきます。

バルーン拡大術
肺動脈の狭いところにバルーンカテーテルを通し、バルーンを開いていきます。この写真はずいぶんと狭窄部を開いた時のものですが、わずかに残るバルーンのくびれが肺動脈狭窄部です。

  • 心室中隔欠損症(VSD)   先天性心疾患

 左心室と右心室とを分けている壁に穴(欠損孔)が空いている先天性心疾患です。欠損孔の大きさに(短絡率)より、病態が異なってきます。欠損孔の位置により、4つのタイプに分類されます。稀に自然閉鎖することがありますが、肺高血圧症などを合併(アイゼンメンジャー症候群)すること、手術もできなくなり死を待つのみになります。欠損孔が小さい場合など手術をしなくてもいい場合もありますが、病気の程度により、(開心術)手術が必要になります。

心臓エコー検査(LV:左心室、LA:左心房、
AO:大動脈、RV:右心室)

猫の心室中隔欠損症のエコー写真です。左心室と右心室の間に空いている欠損孔からのジェット流が認められます。左心室から右心室に向かって血流が流れています。Kirklin II型のVSDです。

心臓カテーテル検査
(AO:大動脈、LV:左心室、RV:右心室)

首の血管からカテーテルを左心室に入れて行った左心造影写真です。左心室から欠損孔を通り、右心室まで造影されています。

治療法

 内科的な治療も行いますが、人工心肺装置に接続し、心臓を止め欠損孔を縫合し閉鎖します。欠損孔が大きい場合には、特殊な布などを用いて閉鎖します。アイゼンメンジャー症候群に陥った場合には、すでに手遅れの状態ですので手術はできませんが、肺の血管を広げるようなお薬を使って治療していきます。ただし、アイゼンメンジャー症候群は末期の病態ですので、治療を行っても絶対的な死を避けることは難しいでしょう。数か月齢の子犬でもすでにアイゼンメンジャー症候群に陥っていることも珍しくありませんので、注意してください。

開心術の様子
人工心肺装置を用いて、開心術を行っているところです。この手術には、獣医師として、執刀医、手術助手、第一器具助手、第二器具助手、麻酔医、体外循環装置操作医の最低6人が必要になります。しかしながら実際には、麻酔助手1名と体外循環装置操作助手1名が獣医師で、数名の動物看護師が外野で手術器具などを器具助手に外から投入していきます。術後も24時間体制で集中看護します。

開心術(欠損孔縫合術)
体外循環装置を接続して心臓を止めて、心臓を開き心室中隔に空いた欠損孔を見つけ、その穴を縫合して塞ぎます。

  • 僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁逆流症、MR)   後天性心疾患のアイコン

 左心房と左心室の間にある僧帽弁がダメになっていくことにより生じる心臓病です。年齢と共に僧帽弁が変性してきて、左心室から左心房へ血液が逆流してきます。重度となってくると、この逆流の影響で肺に水がたまってきます。肺水腫と言わるもので、咳をしたり、呼吸が悪くなったりします。僧帽弁を引っ張っている腱索(糸みたいなもの)が、突然切れることがあり、その場合には、急性の肺水腫を生じ、呼吸困難、チアノーゼを示します。入院治療が必要になりますが、死亡することも珍しくありません。

胸部レントゲン検査
横向きのレントゲン写真ですが、心臓の重度拡大と肺水腫(肺が白くなっている)が認められます。

心臓エコー検査(LV:左心室、LA:左心房)
左心室から左心房への逆流が認められています。

治療法

 内科的な治療が主になります。僧帽弁閉鎖不全症に対する動物用の治療薬がすでに数種類あるくらい非常に多い心臓病です。ACE阻害薬、βブロッカー、Caチャンネルブロッカー、血管拡張薬、利尿薬、強心薬など様々なお薬を、病状により組み合わせていきますので、定期的な検査が非常に大切です。これらのお薬を毎日確実に飲ませていくことで、寿命が延び、症状を改善することが証明されています。また、心臓病の犬猫には、食事療法も非常に重要になってきます。
 腱索が急に切れたような犬では、リスクはありますが、開心術により切れた腱索を直すなどする手術や人工弁を入れる手術をすることがあります。

開心術
心臓を止めて左心房を切開し、僧帽弁を確認しているところです。

心臓手術
人工弁を入れたところです。

  • 心筋症

 心筋症とは、心機能障害を伴う心筋疾患とWHOで定義されています。心筋症には、様々なタイプが知られており、拡張型心筋症(DCM)、肥大型心筋症(HCM)、拘束型心筋症(RCM)、不整脈源性右室心筋症(ARVC)、分類不能型心筋症(UCM)に分類されている。また、高血圧や内分泌性など、二次性に生じる心筋疾患を「特定心筋症」としている。犬猫の心筋症の分類もこの人の分類に準じています。心筋症は猫の心疾患で最も多い疾患であり、その中でもHCMの発生が最も多い。
 犬では、散歩などの運動負荷が可能なので割合早期に診断できますが、猫は要注意です。猫の調子が悪くても、なかなか気づいてあげることが難しい。当院で心筋症と診断した3分の1は、ワクチン時や健康診断で見つかっています。

心臓エコー検査(LV:左心室、LA:左心房、
AO:大動脈、DIA:拡張期、SYS:収縮期)

猫の肥大型心筋症のエコー写真です。心室の筋肉が厚くなり、収縮期にはほとんど左心室腔が殆どなくなっていることがわかります。

不整脈源性右室心筋症
猫の不整脈源性右室心筋症のエコー写真です。この型の心筋症の発生は非常にまれですが、不整脈を起こし、腹水や胸水などを合併していきます。

治療法

 心筋症の治療は、内科的に行っていきます。心筋症のタイプや病態によって、お薬が変わりますが、基本的にはACE阻害薬、βブロッカー、Caチャンネルブロッカー、血管拡張薬、強心薬、利尿薬などを組み合わせて使用していきます。なお、甲状腺機能亢進症や慢性腎不全から肥大型心筋症を合併することがありますので(正確には特定心筋症と言われています)、これらの検査治療も必須になります。

  • 全身性動脈血栓塞栓症(大動脈血栓塞栓症)

 全身性動脈血栓塞栓症(STE)は、心筋症や感染性心内膜炎、自己免疫疾患などで発生した血栓(血のかたまり)が動脈に詰まることにより生じる病態です。猫の心筋症で非常に多く発生し、腹部大動脈で血栓が詰まってしまい、後肢の血流を遮断してしまう病気です。猫は非常に痛がり、足が立てなくなり(後肢麻痺)、呼吸も荒くなります。また、血栓が前足、脳、腎臓や消化管などの血管に詰まることがあり、詰まった場所により症状が異なります。完全に血流が止まると、後肢が腐ってきたり、下血をしたり、腎不全や痙攣を起こすなど、命を落とすことも珍しくありません。

片側性の血栓症
猫の後肢のパッドの写真です。写真向かって右側のパッドの色がより悪くなっています。

腹部超音波検査(A:腹部大動脈)
腹部の超音波写真ですが、腹部大動脈内に血栓が認められ、後肢に流れる血流が遮断されています。

治療法

 後肢麻痺の場合、時間が経つに従い足が腐っていきますので、とにかく早く治療を開始することが重要です。治療は、様々な方法がありますが、大きく保存療法、血栓溶解療法、外科療法の3つに分類されます。心筋症の診断治療も非常に大切です。また、ひどい痛みを伴っていますので、積極的な鎮痛剤の使用も重要です。治療法にもよりますが、残念ながらその多くが死亡してしまいます。治療により急性期を乗り切れた場合でも、腐った足を切り落とすなどの手術がその後に必要になるかもしれません。治療の開始が早かったり、不完全閉塞であったりすれば、後遺症もなく治療によく反応することも珍しくありません。この病態は、とにかく時間との闘いです。後ろ足が立てなくなったら様子を見ないで、病院に直行です。

手術写真
開腹して大動脈内の血栓を除去しているところです。

このページのトップへ