消化器病とは、口から始まり食道、胃、小腸、肝臓、膵臓、大腸、肛門に至る臓器の病気を言います。症状として最も多いのは、嘔吐と下痢です。嘔吐の原因は食道や胃腸の閉塞・圧迫、異物誤飲(薬物、植物など)、細菌・ウイルス・寄生虫などによる感染症、さらに腫瘍など様々な原因が考えられます。下痢も嘔吐と同様に様々な原因で起こります。分類には小腸性下痢と大腸性下痢があり、小腸性下痢は1回の便の量が増え、大腸性下痢は排便回数が増えるのが特徴です。また、それぞれに急性と慢性があります。
嘔吐下痢には様々な原因がありますので、その原因を調べるために、血液検査、レントゲン検査や超音波検査またバリウム造影検査さらには内視鏡検査やCT検査などを行っていきます。
- 歯肉・口内炎
歯肉口内炎とは、口腔内の粘膜や舌、歯肉などに炎症が起こっている状態を言います。歯肉口内炎は、猫や犬で多い病気の一つです。症状として、よだれで口の周囲が汚れていたり、口臭がきつくなったり、痛みのために食欲がなくなったりしますが、痛みや違和感のため前足で盛んに口を気にしたりするなどの症状が見られることもあります。猫では、猫免疫不全ウイルスや猫白血病ウイルスに感染している場合には、難治性の歯肉口内炎を生じることがあります。口の奥の口峡部に重度の潰瘍を伴う歯肉口内炎(口峡炎)を生じていることが多く、猫の口を開けて患部を確認し診断します。また、犬の場合に多いのが歯石などに伴うもので、歯石沈着に伴い歯肉炎から歯周炎に陥り、歯肉が退縮したり歯がグラグラになってしまったりします。また、歯の根っこが膿んでしまい(根尖周囲膿瘍)、目の下のところが腫れてきたり、膿が噴出して来たりします(歯瘻)。犬歯に起こると鼻の中に同じことが起こり、くしゃみや鼻汁の原因になります。なお、歯肉口内炎と思っていたら、腫瘍だったということも珍しくありません。
治療は、まず抗生剤や消炎剤を用いますが、歯瘻では、原因となる歯を抜かなければ再発を繰り返します。また、歯石が沈着しないように、子犬子猫のうちから、歯磨きを習慣づけ、歯石が付きにくくなる食事やクリーナーなどを使用することが重要です。定期的に麻酔下でスケーリングを行っている子もいます。猫の口峡炎はなかなか完治するものではありませんが、健康な歯を含めてすべての歯を抜く、全顎抜歯により随分と症状がよくなることもあります。全額抜歯は大変な手術になってしまうのですが、内科的治療に反応が悪く、痛くてものが食べられないような場合には考慮してもいい治療法です。
口内炎
猫の口腔内の写真ですが、上下の歯肉やの付け根の口狭部に、ひどい歯肉口内
炎が見られます。この猫は、痛みのため食欲もなく消炎鎮痛剤を長期投与してい
ましたが、全額抜歯にて痛みも消失し食欲も回復しました。
- 胃拡張・胃捻転症候群(GDV)
胃拡張・胃捻転症候群とは、胃が拡張し、捻じれて(捻転)生じる疾患です。胃が拡張し捻転すると胃の上下で胃自体が締めあげられる形になりますので、胃内容部が移動できなくなり発酵しますます胃が大きく拡張していきます。捻じれていますので、胃自体にも血液が行きにくくなります。レトリバー種などの大型犬で胸の深い犬種での発生が多いですが、近年ではミニチュアダックスフンドでの発生も珍しくありません。食べ過ぎや早食い、食後の運動などがGDVを引き起こす要因の一つと言われています。症状として、一番わかりやすいのが、お腹がどんどんとパンパンに張って大きくなってくること。食事後であればより一層この病気を疑います。また、胃が捻転していますので、吐こうと思っても吐けないことも特徴です。急激な腹囲膨満から虚脱・昏睡に至ることが多く、緊急治療を行わないと死につながります。
診断は、レントゲン検査にて、大きく拡張し捻じれた胃の所見にて行います。胃拡張のみであれば、胃ガスを針を刺して抜いたり、チューブを胃まで入れて抜いたりすることによりほとんどが落ち着きますが、GDVであれば針でまず胃ガスを抜去して、ショックに対する治療を行った後に緊急手術です。手術を行っても、胃の捻転を解除したとたんに再灌流障害を起こしたり、術後に重度の不整脈を生じたりして死亡することもありますので、油断のならない病気です。胃の壁がすでに壊死している場合は、60~80%死亡すると報告されています。
普段の予防策として、一度に大量の食事を与えないこと。1日の食事を数回に分けて給餌してください。そして、食事後に散歩などの運動をしないことも重要です。親子兄弟にGDVを発症した犬がいる場合には繁殖をしないように推奨している報告もあります。それと、調子が悪ければ様子を見ないで直ちに動物病院に行かれることです。
手術写真
胃捻転胃拡張の犬の手術写真ですが、すでに胃の一部が腐っていました。胃の部分摘出を実施し、胃の回転が起こらないように胃の一部をお腹に固定する手術を行っております。
- 胃内異物
胃内異物として、針やコイン、竹串、ボールなどが多くみられます。無症状で経過する場合もありますが、通常は胃の出口が閉塞されてしまうことや異物の刺激によって嘔吐したり、食欲がなくなったりします。診断は、レントゲン検査、超音波検査などで行います。石やコインなどはレントゲンで写りますが、竹串やスーパーボールなどは、一般のレントゲンでは写りませんので、造影レントゲン検査などを合わせて行います。
治療として、お薬で吐かせることもありますが、すでに嘔吐をしているのにもかかわらず吐けない場合や異物が鋭利なもの、鉛など中毒を起こす危険性があるものなどの場合は、ただちにそれを除去する必要があります。除去の方法は内視鏡と開腹手術があります。本院には内視鏡がありますので、異物の大きさや形などによっては開腹手術をせずに除去できることもあります。内視鏡で異物を除去できれば、開腹手術と違い動物にメスを入れずにすむので術後の早い回復が望め、動物の負担を大幅に減らすことができます。また、異物食いは繰り返す犬がとても多いので予防が重要です。犬の行動範囲に飲み込める物を置かない事や目が届かない時にはサークルを使うなどの基本的なことがとても重要です。
内視鏡
麻酔をかけて内視鏡にて胃の中にあった竹串を摘出している写真です。2本の
竹串は無事摘出できました。内視鏡で取れないものは、開腹手術になります。
- ひも状異物
異物の中でも厄介なものが、ひも、糸、ストッキング、タオルなどの〝ひも状異物″です。ひも状は消化管内で線状の形状を示し、一カ所(舌根部や幽門部など)に一部が留まり残りの部分は消化管の蠕動運動により腸内に流れて行ってしまいます。異物の一部が一カ所に留まったまま、残りの部分が遠位(肛門側)に送られるにより、腸管はアコーディオン状になり、異物が腸壁に切れ込み腸などに穿孔を起こす(穴が開く)ことがあります。症状は嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失などです。
治療は、手術しかありません。胃の中だけにある異物であれば、内視鏡や胃切開で摘出できますが、ひも状異物は、何か所も腸切開して取り除かなくてはなりませんし、すでに腸が穿孔している場合は、腹膜炎を合併してしまっています。腹膜炎などで敗血症(細菌が全身に回っている病態)になっていると死亡することも珍しくありません。
- 膵炎
膵臓とは、胃と十二指腸のところにある臓器で、内分泌腺と外分泌腺をもっています。内分泌腺はインスリンなどを分泌し、外分泌腺は膵液と言われる消化酵素液を分泌しています。膵炎とは、主にこの外分泌系が障害をうける病気です。犬が膵炎になると、嘔吐や食欲不振、抑うつ状態、下痢などを示します。猫では黄疸や肝臓の数値が上がったりします。急性膵炎は、急激に何回も嘔吐したり下痢をしたりすることが多く、腹部痛があります。一般的に、原因は不明ですが高脂肪食などの偏った食事や肥満などが関係していると言われています。お盆や正月明けに多く発生している傾向にあるので、親せきなどが集まる会で、肉や空揚げなど脂肪分の多い人の食べ物をもらっているんだと思います。多くの飼い主の方には心当たりがあるようですので。
診断は血液検査や超音波検査・レントゲン検査などにて行います。特に、血液検査で、膵臓の値が高くなっていることにより診断していきます。ただし、腫瘍や炎症性腸炎、腸閉塞など他の病気で膵炎を伴っていることもありますので、慎重な検査が必要です。治療への反応が悪い場合には、CT検査や内視鏡検査を実施します。
治療は膵臓の活動抑制を目的に、嘔吐があれば絶食を実施し、痛みによるショックを抑えるための鎮痛剤や点滴を行います。一般的に通院治療を行いますが、重度の場合には入院治療していきます。膵炎も重症化すると死亡することもあります。膵炎は再発することが多いため、人の食事は一切やらずに、低脂肪の消化の良い処方食を食べさせる必要があります。
- 炎症性腸疾患(IBD)
炎症性腸疾患は、小腸または大腸の粘膜固有層における炎症細胞浸潤によって特徴づけられる原因不明の慢性腸障害を特徴とする症候群です。IBDは犬や猫における慢性の嘔吐や下痢の原因の1つであると考えられていますが、様々な原因が知られていますが、未だによくわかっていない症候群です。
IBDの診断ですが、正確な診断を下す場合には生検が必要になる場合がほとんどですが、まず便検査を行い消化管内寄生虫などがいないかを調べます。そして、食事アレルギーや食物不耐性を鑑別するために、まず低アレルギー食を1-2か月間与えます。この際には他の食事を決して与えてはいけません。これで改善すればそのまま食事療法を続けていきます。また、整腸剤や抗生物質、寄生虫の駆除薬などを試験的に投与していきます。それらの治療に反応しない場合には、全身麻酔下での内視鏡検査を行いますが、それでも確定診断が得られるとは限りません。除外診断をしながら、診断的治療を行いながらの診察となります。
IBDは治療が長期に及んだり、完全には治癒できないことが多いため、症状のコントロールを目的として治療します。低アレルギー食、整腸剤、抗生物質、ステロイド、免疫抑制剤など、その症状に合った食事療法や薬剤を使用していきます。これらの治療に反応しない場合には、下痢が続き、または低タンパク血症になり、痩せてきて腹水が溜まり死に至ります
- 巨大結腸症
巨大結腸症は、結腸が異常に拡張した状態になる病気で犬より猫に多く発生します。結腸に慢性的に糞便が停滞すると、水分が吸収されることによって糞便が硬くなります。原因には、結腸の蠕動運動が不十分となることにより発生する原発性のものと骨盤骨折や骨盤の形成異常による通過障害により発生する続発性のものがあります。症状は便秘や力んだ際の嘔吐や食欲不振、元気消失、脱水があります。また、糞便が硬いために粘液だけが出ることがあり、下痢のような症状が見られることもあります。巨大結腸症では、レントゲン検査によって糞便を多量に蓄積した拡張した結腸を確認できます。
治療は、脱水の補正を第一に行います。脱水が治った後に浣腸などで排便を促します。この際に、麻酔や鎮静が必要となることも多いです。また、便軟化剤や食事の変更などで内科的に治療(予防)することも大切です。ただし、この病気はなかなか治りにくいので、定期な浣腸が必要な場合が多い現状にあります。また、これらの治療に反応がない場合や、骨盤骨折の変形により物理的な狭窄がある場合には、全身麻酔下で骨盤を拡張する手術を行います。
腹部レントゲン検査
猫の巨大結腸症のレントゲン写真です。大腸に大きな便がたくさん認められま
す。入院で点滴を十分した後に浣腸をしますが、浣腸にて体調を崩すこともあり
ます。お薬や食事療法でも治療しますが、反応が悪い場合は外科的に骨盤を広く
する手術を行うこともあります。